2007年3月16日金曜日

また遊びに来るよ

「ティム、右に360度旋回しろ!右から接近するからな」

アンカレッジとスシトナ平原の海峡を越えたところ
まだ冬の寒々しさがのこる平原上で
僕は、ティムのセスナ185に空中集合して
編隊飛行を組んだ。

「イサオ、何処にいるんだ、見えないぞ?」

ティムにとって編隊飛行は、初めての経験、

「いいよ、4時の方向にいるから心配しないで」

その後、僕らはしばらく一緒に
スシトナ平原の冬枯れの林の上を飛んだ。

ティムのセスナ越しに
アラスカの最後の空の景色が
ゆっくりと流れる。

今日は、僕にとって本アラスカ滞在、最後の飛行。
普通に飛んでいたら感傷的になるから
思いっきりティムの飛行機に近づいて
操縦を複雑にして
つとめて明るく飛ぼうとおもった。

雪面に残る犬ゾリの跡、
凍った湖面に美しくつもる雪、
海氷に埋め尽くされた海、
見慣れた景色とも、しばしのお別れ。

また夏に君たちと出会ったときは、
すっかり緑で美しいんだろうな。

その後、ビッグレイクという森の中にある飛行場に
着陸してハスキーを格納庫の中にしまい込んだ。

「今度、お前と会うのは2ヶ月後ぐらいかな?
はやく会えるように日本で仕事を沢山もらってくるからな
良い子にしてるんだぞ」



ティムは、アンカレッジの駐機場で
たまたま隣に駐機していた飛行機のオーナーパイロット。
一度、強風時にハスキーが動けなくなったとき
何も言わず、ロープと車を提供してくれて一緒にハスキーを
強風から守ってくれた友人。
今回も、なんの見返りもないのに帰りの足となってくれた。

帰りは、彼の操縦でビッグレイク湖畔にある彼の別荘を
上空から教えてもらう。

「イサオ、いつでも俺の家に来い、
お前のでかいタイヤならいつでも降りられるさ。」

「でも、夏は湖じゃないの?」

「じゃあ、フロート買え!」
と大笑いして僕の肩を思いっきり叩く。

陽気にしているティムだが、
奥さんを若いうちにガンで亡くし
いまはお子さんと暮らしている気丈なおじさん。

アンカレッジに着陸したあと、ティムは

「お前の邪魔なガッデムハスキーがいなくなったから、
俺のセスナの駐機がしやすくなるってもんだ」

なんて冗談を言ったと思ったら
最後に自分の湖畔の家の手書きの地図を渡してくれた。

「絶対に来いよ、そしてフロート買え!」

アラスカのオヤジたちは、粗っぽくて
テキトウで口が悪くって、でもとっても
情にもろい人ばかりで大好きだ。



僕は、ハスキーをおいて日本へ帰る。
好きなことをひたすら追いかけ続けてきた僕も
明日のメシ代のことについて少し悩むことはある。

そんなとき、僕の毎日の昼飯代を抜けば
ハスキーのガソリン代の足しになるんじゃないかって
思うことがあるよ。

その程度だけどさ。


「好きなことを続けてゆけば、なんとかなるさ」


アラスカに来て

アラスカに教えてもらった言葉。


また遊びにくるよ。

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