2010年6月2日水曜日

ブッシュランディング(前編)

晴天のカビック






ブルックス山脈の北、
北極海との間に挟まれた緩い北向きの大斜面を
現在、カリブーの大群を探しながら飛行しています。

このノーススロープと言われる大ツンドラ地帯は、
南北に200キロ、東西には約1000キロも伸びる大きさで、
私の飛行機であっても、かなり大きい捜索エリアです。
(本州、四国、九州を足した大きさぐらいでしょうか)


今回の滞在は、

ノーススロープのどこかに集合するであろう、カリブーの大群を探す


のが目的です。


ノーススロープの東半分に的を絞って飛行しているのですが、
それでも広大なエリアを探し回るのは、かなり大変なことです。


現在、探せているのは、
「カリブーの小集団」ぐらいでしょうか。


そんな捜索の中、昨日
こんなことがありました。


ビデオカメラマンの西さんと
カビックから200キロ以上離れた場所まで、
カリブー捜索に行きました。


そこは往復で3時間かかる場所で、
私の飛行機の搭載可能燃料は、約6時間。

残りの燃料の余裕を考えると、
現地では2時間ほどしか捜索できません。


離陸時のカビックは北方向に海霧が迫っている状態でしたが、
そんなことはお構いなしに、東へ飛び立ち捜索へと向かいました。


若干の雨模様での飛行でしたが、
誰もいないブルックス山脈の北麓は何回飛んでも
リアルなのか夢物語なのか分からない景色であり、
それは伝えようのない、箱庭の造形美です。

谷を越え、大河を越え、広い丘陵地帯を
長時間俯瞰していると、
ノーススロープ東側の地形と
カリブー小集団の行動パターンが何となく分かってきました。

しかし

カリブー捜索は2時間を超え、そろそろカビックへ
戻らなくてはいけません。

まだ小集団にしか出会えず、
納得のいく映像が撮れていない西さんと私ですが、
安全上、仕方なく
後ろ髪を引かれるような思いで、
針路を西へ帰路飛行に戻ります。

残りの燃料は、2時間分。

その後、何事もなくカビック目前まで飛行、
目の前のカニング川を越えれば、
スーザンのおいしい夕食が待つカビックが近づいてきます。


しかしそこで、、ぶ厚い霧雲が、目の前に現れました。

いろいろと飛行機を大きく旋回・上昇・降下させ、
カビックに繋がる雲のトンネルや、経路を探しますが、
地上は全く見えない様子。

ラジオで伝えてくれるスーザンの地上天気情報も
霧が濃く相当悪いらしい。


これでは、カビックに着陸できないな・・・


頭の中で、ひそかに
ブッシュランディングの決心を下しつつある私、


アラスカ辺境の地で飛行する場合は、
必ずしもきちんと整備した飛行場に降りられるとは限りません。

目的の飛行場の天気が急変した場合、
通常であれば別の飛行場へ向かうのがセオリーですが、
ここアラスカでは、その代替飛行場がはるか遠かったり、
もしくはその飛行場も天気が悪い、ということがよくあります。


そんな時は、最初から飛ぶな


というと言うのが、法的な解釈ですが、
ここは辺境の地であり、
必ずしもそんなことはなく・・・

アラスカ辺境の地を飛行をするのであれば、
その辺の勇気と知恵は持ち合わせなければいけません。


では、

どこにも着陸出来る飛行場がないときは、どうするのか。


そのときは、そのへんのアラスカの大地に降りるのです。
それがブッシュパイロット。


カビックから針路を反転、東へ向け、
カニング川の流域に着陸場所を探します。


春の雪解けシーズンなので、
ツンドラはドロドロな状態、

しかも、腹を空かせたグリズリーが
待っている可能性もある。

降りるなら、比較的安全確保が可能な河原しかないか、、

カニング川は、いまだ氷が張っている状態で
春の河原は、雪解けの影響で荒れている場所だけ、、、

北風が強く、、東西には着陸帯をとれないな、、



整備された飛行場ではなく、
まったくの原野に着陸するブッシュランディング。

様々な情報を着陸前に確認し、
それを総合的に判断して、
着陸の決心をしなければいけません。

それに、最も大事なことは、
後席の乗員を心配させないこと。

すべての情報収集と決心は、無言のまま、
時には軽い冗談を交えながら、後席をリラックスさせつつ
行わなければいけない。

後席の西さんと

「日本だったら、代替飛行場に飲み屋街があれば、
ちょっと繰り出す楽しみがあるんですけどねぇ、ここは原野ですから・・」

なんて冗談を言いながら、フラップを下げて着陸態勢に入る。
西さんは非常に落ち着いている様子だ。

燃料が限られているので、
悩む暇もないまま、カニング川の河原で
距離は100mほどの、良さそうな場所へ進入を開始した。


見た目上は、悪くない河原だが幅は狭い。
果たして無事に降りられるだろうか。



つづく

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