2010年6月3日木曜日

ブッシュランディング(後編)

カニング川の河原に降りたち、一泊する


カビックが、深い霧に包まれて着陸出来る状態ではなく、
また他に着陸出来る飛行場は近くにない今、

飛行場ではない、どこかの大地

に着陸しなければいけないのは、当然のことであった。


降りようと考えているカニング川の河原は、
ちょうどツンドラと川の境界になっているような場所で
長さ約100m、幅15mの着陸場所としては良さそうな雰囲気だった。


ひとまずフラップを着陸態勢の位置まで下げて、
河原の上をローパスしてみる。

河原を形成する砂利は、大きなものが多く
路面は、あまりフラットではなさそうだ。

パワーを足して、左上昇旋回をしながら河原を振り返りつつ、
着陸をするかどうかの判断をする。

ふと後席を横目で見つつカメラマンの西さんの表情をのぞくが、
いたって平静な様子で安心する、西さんは撮影現場で、
こういう体験をかなりしてきているのだな、と思った。


最終アプローチで、パワーを絞りつつ
着陸場所の河原を注視する。
大きな石、地面の穴、背の高い木がないかを
最終チェックしつつ、パワーをアイドルにして速度を殺す。

地面に接地時、出来るだけ速度が少ない方が
着陸時の停止距離が短くなるので、ここが肝心なところだ。

接地間際は速度を殺すために
機体のピッチを上げるので前方が見にくくなるのを補うため、
スムーズに注意視線方向を周辺に移行し、
地面との距離感覚をキープし続ける。


地面とタイヤがインパクトする瞬間、
比較的大きな石に当たる感覚があった。
機体が、若干上下する。

スロットルをいつでも全開に出来るように
左手が、少しこわばるのが分かる。

まだ、いけるか・・

様子見にブレーキをかけつつ、
前方視界を確保するために、操縦桿を前に若干倒す。

プロペラの向こうには、
想像以上に大きな凸凹がある河原に、少し驚きつつ、
このまま着陸を継続することにした。

機体は、地面の大きな凹凸で激しく上下する。
そのたびにブレーキと操縦桿のピッチコントロールで
プロペラと尾輪を地面の衝突から守る。

感じとしては、自分の真下にある2つの主輪だけで、
うまくバウンドして衝撃を吸収する

といったところだろうか。

最後の大きなバウンドが終わったところで、
ハスキーは無事、河原の範囲内で止まった。

着陸停止距離は、60mぐらいだろうか。

意外に震動の大きい着陸だったが、
無事着陸できたことに軽く安堵した。


ブッシュランディングは、
意味もなくやる必要はないが、
それが必要な時には、
確実に安全に出来なければいけない。

それがなければ、アラスカの辺境で飛ぶのは難しいだろう。


着陸後は、
ハスキーの翼の下に黄色いテントを張り
天候が回復するまでの間、
西さんと二人で薪を集めて、たき火を楽しんだ。


霧の中のキャンプで、
そばを流れる川水の音とパチッと燃える
乾いた焚き火の音だけの世界が、
目の前で燃える炎を際立たせていた。

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