2009年10月7日水曜日

雪のハンティングキャンプへ

一路、フェアバンクスを目指し北上DillinghamからKoliganekへ。
Koliganekで一泊した後、Mcgrathで給油しNikoraiへ。

今回の旅の最後は、ニコライの友人ダニエルと合流して
デナリの西麓にあるハンティングキャンプにいくことだ。

まずニコライ村に着陸、
相変わらず一気に集まってくる村人にダニエルの居場所を聞く。

村人A「ダニエルは、まだ山のハンティング・キャンプにいるよ」

俺「まだキャンプにいる?いつまでハンティング・ガイドやっているんだ?」

村人A「知らないよ、ただダニエルはマウンテン・マンだからね。彼は何ヶ月も山にこもっているよ、Sliver Tipsというキャンプだがら行ってみれば?」 

村人B「ついでに、ダニエルのメールを運んでくれる?」

と言って小さな段ボールぐらいの包みを俺に渡した。
ハンティングキャンプ、山の雪、ダニエルはいまだキャンプに。

気になる点がいくつかあるのだけれど、
メールをもらったからにはSliver Tipsというキャンプに行くしかない。
航空地図を見る、キャンプは地図に記載されていないので
おおむねの場所を聞いて書き込む、
高度2000ft、デナリの西麓、険しいアラスカ山脈の入口。

離陸後ニコライから南へ30分飛行、周囲は、雪で覆われていて冬の景色だ。


するとデナリを源流とする大きな川に隣接するSliver Tipsらしきキャンプが、
立派な10ほどのログハウスをなして見えてきた。


キャンプ上空にたどり着くとログハウスから、
ひとりの大男が出てきて、ATVに乗りながら山の方向を指さしている。
ダニエルだ、彼が着陸帯の方向を示しているのだ。

指の方向へ飛行機を滑らせる、そこに着陸できるところがあるはず・・・

しかし、そこには雪で覆われた滑走路というにはあまりに狭い
ちいさなちいさな幅の小道しかなかった。

距離は十分なのだが、しかし幅が狭すぎる・・5メートルぐらいではないか?
しかも雪で完全に覆われているから、この「小道」は着陸中、簡単に逸脱してしまいそうだ。

と思うのも束の間、エキサイトしている自分はいつのまにか
滑走路横にある旗で風を確認しつつ、最終経路に突入していた。

滑走路は、幅が狭いだけで長さは十分、風は弱い。
問題は雪でパックされたツンドラ上に降り立つ機体を
どうやって止めるか・・・・だ。
タイヤは、溝の全くないスリックタイヤ・・ブレーキが効くかどうか。
しかも、こんな狭い幅の場所には降りたことがない。

経験のない危険だと思われる場所に着陸する場合は、
なにかはっきりとした理由があるときだけだ。
意味がないのに飛行場以外のブッシュ地帯に着陸すれば、
命とお金は、いくつあっても足りない、、とこれは
ここ数年のアラスカ飛行で出来た自分の中のルールだった。
自分のルールに例外はないはずだ。

ここでの着陸のためのはっきりとした理由は、
ダニエルがなぜ、まだ山にいるかを知ること、
頼まれたメールを渡すこと、そしてSilver Tipsキャンプを見てみること。


着陸経路のファイナル、迫る雪の滑走路である小道が迫ってくると同時に、この小道がいかに狭い幅であるかがよく分かる。こんなところに本当に降りるのだろうかと自分を疑いながら出来るだけ低速で進入、しかし視覚的に感じる速度は早い。そろっと、やさしくタイヤを接地させて進路をキープする。インパクトのあるランディングは逸脱しそうなので御法度だ。

途中、小道に山が出来ていて方輪が大きくバウンド、翼が雪面に近付く。ここで飛行機の翼が地面を引っかけて横転するところをイメージする、次の一手である操作をするため体が一瞬こわばるが、機体は若干左にそれただけで元に戻った。焦るのと同時に、こんな瞬間の自分を楽しむ己の存在を悟る。

しかし・・ここは、本当に滑走路なのか?
夏なら何とかなりそうなんだが・・・止まれるだろうか。
タイヤと雪の摩擦の少なさは飛行機をいまだ停止させず、
残滑走路は、どんどん減ってゆく感じがする。
「減ってゆく感じがする」・・というのは尾輪式飛行機特有の
前方視界の悪さのため、おおむね推定するしかないということだ。

その後ブレーキを慎重に使用してなんとか停止したが、ブレーキはタイヤの回転を止めているのに、機体は最後まで滑っているという体感だった。

デナリの西麓、見渡す美しい景色の中に降り立つ(左にハスキー)


この景色の素晴らしさは、
ここに降り立つ恐怖に比例していた。

雪が音を吸収する静寂の中、
白い息を吐きながら3回、深呼吸する。
ダニエルは、もうすぐATVでやってくるはずだ。

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