2009年10月4日日曜日

クライシス2

ベーリング海を右に見ながら東へ飛ぶ。
PlatinumからDillinghamへ。

依然、ベーリング海の範疇であるものの、
Bethelを端とした南西部から確実に離れることに少しばかりの寂しさを感じる。
あれだけ人間の臭いのしない場所を知ると、
いま戻っている東への飛行進路が、
アラスカとは違う文化圏への経路のようだ。

本当のアラスカから遠ざかる感じがする。


Dillingham、フィッシングシーズン終了時期、店じまいの飛行機で
飛行場が大混雑。トラフィックパターンにすでに3機、飛行場の周囲に2機。
しかし大きな飛行場の割に、ここには管制塔がない。
出る情報は、数分前に分かっていた飛行機の場所のアドバイスだけ。
これだけの交通量で管制しないのは危険だな、、、と
飛行場にいる飛行機と、それに向かって北から進入してくる飛行機を探す。

一機、二機、、、三機目・・・・が見えない。
操縦席から右側、2時半、5度下に見えるはずの飛行機が見えない。

目を凝らしてライン上に捜索する。軍事用語では索敵だ。
自分以外に空を飛んでいるものは、基本的にすべて敵だと教える軍隊の言い回しは言い得て妙だが、こちらのほうが自分にはしっくりくる。前方1割、後方9割で索敵しながら戦っていた空自時代が懐かしい。

すると、、、
右ばかり見ていた自分に、左から何か気配を感じた。
とっさに操縦桿を引いて急上昇・・・心臓が飛び出そうになる。

真下を上昇しながら
一瞬にして過ぎ去る飛行艇が一機。

「見えてないくせにパターンに入りやがって・・・この!馬鹿野郎!」

聞こえもしないし、
どうしようもないのに、怒鳴ってしまう。

飛行艇は上昇しながら、何事もなかったかのように右に抜けていった。
飛行場のパターン内である、とんでもない場所を突き抜けてゆく飛行艇パイロットは俺に睨まれている。

着陸は、北から来ている飛行機の前数マイルをショートカットするように
パターンを縮める360°着陸法で進入する。
飛行場の吹き流しを見て風を確認する、
右から直角に息のある風、20kt弱・・・これはまずい。

この飛行場は、ほかにも問題がある。滑走路が舗装されており、
ハスキーのツンドラ用タイヤでは、グリップが大きすぎて事故を起こす
可能性が高くなる。それが横風の状況下だとさらに危険性が増す。
だから大きなタイヤの飛行機は、砂利とか草の滑走路のほうが都合がよい。

どんなことでもそうだが、まずい状況が2つ重なった場合、
すぐにそれを中止するというルールがある。
しかし今回はそれが出来ない、ここに降りなければ帰りの燃料がないのだ。

横風が強いのは、時の運。
燃料が必要なのは、分かっていた事実。

着陸フェーズ

滑走路にタイヤを接地させようとすると風の息が止み、
飛行機が急激に落下する、それを防止するためパワーを足すと同時に
風がまた吹き荒れ、飛行機は無意味に浮揚する、
風とエンジンパワーがうまく調和せず、パワーを足したまま
舗装された滑走路に右主輪だけを付ける、、、
左羽根をあげたまま方輪走行で滑走路を走る。
右に偏向する機体を左主輪と尾輪を浮かせた状態のまま、
まっすぐ走らせるたあと、パワーを引いてアイドルにする。
すると左主輪が接地、そのうち尾輪も滑走路に付く・・そこが緊張の瞬間だ。

尾輪接地と同時に、飛行機が大きく風上の方向、右側へ偏向する。
操縦桿はすでにフルで右だ、左ラダーを蹴る、でも機体は風見鶏のように右へ進み
滑走路を逸脱しそうな方向をとる、場合によってはブレーキを使わなければ。
「だめだ、このまま行けば滑走路を逸脱する」
進む成分を止めるためやむなくディファレンシャル・ブレーキを使って機体を停止する、どうしようもない。
滑走路内の右側半分でいったん停止したあと、ゆっくりとパワーを足して再度タクシー、飛行機がまっすぐ進めない状況下で、後ろから来る飛行機が「滑走路で止まる気か?」とラジオで言ってくる、
「うるせえ、こっちはまっすぐ進めないんだ」
と無線機のスイッチを押さずにつぶやきながら、斜めに進んで滑走路を開放。
後ろを気にして見ると、後続機はまだ接地前だ、
「どんなセパレーションがおまえには必要なんだ?」と
冷やかし半分で言ってきたパイロットをまた睨みながら言った。

「前輪式飛行機のおまえには分からないんだよ」



基本的に生き残るためには、
周りと戦わなければならないときがある。

そして

危険なことは必ず二回やってくる。

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