2010年5月27日木曜日

ブッシュパイロット・ママ



私は、ノーススロープを飛ぶブッシュパイロットたちの
お母さんのようなものよ。

誰がどこでいつ飛んでいるのか、いつ戻ってくるのか、
いつも掌握しているの。
特に夏は、沢山の数のパイロットが来るから、
そのすべてのリストを作って
誰がどこに行っていつ戻ってくるのか、必ず聞いているわ。

たまに濃い霧のときに、燃料がなくなって迷ってしまったパイロットが
川を頼りにふらふらと朝3時ぐらいにカビックへ降りてくることがあるのよ。

そのときは私も起きて、
コーヒーを入れてあげて即席ピザを食べさせて
ゆっくりと休ませてあげるの。


ロジャー・ケイというブッシュパイロットは、
本当にこの場所が気に入って
いつもここに給油ついでにコーヒーをのみに来るわ。

彼は、とある晴天の日ここにやってきて、

「スーザン、もう今日は飛びたくないから、霧を作ってくれ」

って私に言うの。

霧の日は、無線機の調子も悪くなることを知っているから、
私は、デッドホースにある彼のボスのいるオフィスにわざと雑音を作って

「こちら、、ザーッ(わざと雑音を作る)、カビッ(ザー・・・)ク、
海霧が(ザーッ)・・・飛べない気象状態(ここだけはハッキリと言う(笑))」

と無線で、霧を作ってあげたわ。

もう飛ばなくて良いと安心したロジャーは、晴天のなか愛用の椅子を外に持ってゆき、
のんびりと大好きなスコッチを傾けながら、ツンドラを眺めてリラックスしていたわ。
ロジャーは、それはもう幸せそうだった。

私はそれ以来、
食事やコーヒーの他にも、霧だって作ってあげちゃうの。



でもある日、こんなことがあった。

いつか、2人の大人と子供が飛行機でここへやってきた。
一組は親子で、その親の友人が一緒と言うことだった。

私は握手して挨拶したあと、
彼らが燃料が欲しいというから燃料を入れてあげて、
サンドイッチを作ってあげた。


彼らはシープハンティングに行くというので、
どこにいくの?いつ帰ってくるの?
と聞いたわ。

すると、

「2,3日後に戻ってくるよ、場所はだいたい・・・」

とはっきりしない答えが返ってきた。

あるハンターは、シープのいる場所を秘密にしているから
それも仕方ないかと思って、そのまま聞き流したの。
ただここに戻ってくると言うことだけはきちんと確認した。

その後、その親子と友人は、
シープハンティングへブルックス山脈へ飛んでいった。

それから、数日後、
この周辺は、とても悪い天気になったの。

飛行機が飛べるような天気ではなく、
州警察からあの親子の飛行機ナンバーの確認の電話がかかってきたわ。
でも、親子は場所を私に正確に教えてくれなかったから、
どこにいるのか分からなかった。
彼らは戻ってきていないのでまだ山脈のどこかにいる、とだけ伝えた。

私はきっと、あの親子が山の中で天気が悪くなって離陸できず
連絡がつかなくなっているのだと思ったわ。

その後、どうしようも出来ない数日を過ごしたあと、
その親子の子供だけが10日後に救出された、という連絡を聞いた。

話を詳しく聞くと、
大人二人でシープの場所を見るために山脈を飛んでくるから、
子供は待つようにと言われたそうだ。
しかし、それからずーっと父親とその友人が乗った飛行機は
戻ってこなかった。

ひとりでキャンプ地に残された子供は、
心配になったがどうすることも出来きず、ただクマの恐怖と戦っていた。

父親たちが帰ってこない不安の中、
それからしばらくして子供は、地上に石を置いて
「HELP」という救出して欲しい旨の文字を作って、待ち続けた。

すると10日後に救助が訪れた。

そしてあとで分かったことだが、父親と友人が乗った飛行機は、
どこかの山で墜落してしまったということだった。


スーザンは言う。

ハンティングをしたり、飛行機を飛ばしたり、
そういうことをするだけでも、アラスカは本当にハードな場所なの。

だから私は、ここを自分の家のようにして
戻ってきて欲しいし、いつも無事を願っているわ。
でもいつも願うことしかできない。

だからあなたも、いつも安全を最優先に飛ぶのよ。
飛行機は壊したっていい、どれだけお金を使ったっていい、
ツンドラだって踏みつぶしたっていい。
でも自分は生き残るというシンプルなことだけは絶対に
おろそかにしないで。

それが、ここの唯一のルールなのよ。

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