2009年10月20日火曜日

デナリ西麓ハンティングキャンプ




ハンティングキャンプに着いた。

比較的綺麗な外観のログハウスに入ると
ダニエルの両親がいた。
ログハウスの角には、大きくシンプルな薪ストーブがあり、
部屋全体をゆるやかに暖めている、中央には大きなテーブルがあり
その上には雑然とキャンプ用の食器と
中が空洞になっている巨大なムースの骨が並んでいて、
対面にはダニエルのお父さんが座っていた、
お母さんは、いろいろと台所仕事をしているようだ。
ダニエルは薪ストーブの前で、俺が運んできた郵便物を読んでいた。

ダニエルのお父さんと帰りの飛行機の話をする。

飛行機が来なくて帰れないのは大変ですね、

「いや、ここでのんびりと暮らしているのもいいもんだよ、急ぐ用事はないから」

と笑いながら答えた。そうなのだ、特に会社に勤めるでもなく、
期限のある返済があるわけでもなく、この山は彼らの時間で流れている。
貨幣観念が、かなりの割合で通用しない場所とも言える。
カネが人間を急がせ、カネが人間を困惑させるという事実は、
こういう場所で気がつく。
そして皮肉なことに、誇り高きアサバスカン・インディアンである彼らもまた
下界に降りると、同じことになるのかもしれない。

ダニエルのお母さんに、ムースとサーモンの干肉、乾いた食パンとちょっと臭いのするバターをいただく。下界とは切り離された世界の食事は、お世辞にも旨いとは言えないが、旅の空腹を満たすには十分な栄養と量だ。
そして、訪問者である自分を受け入れてくれたことがなによりうれしい。

お父さん「今晩は泊まってゆくといい。もう時間も遅いからな」

俺「そうですね、そうしたい所なんですが・・・」

ダニエル「熊がいるかもしれないから、ひとまず飛んで周辺を探すよ、それで獲物がいないようだったら、そのまま村に戻るよ」

俺「そう、それがいいです、この雪と天気じゃこのキャンプに飛行機を置いておけないかもしれないので、、、本当はこのキャンプに何週間でも滞在したいんですが」

お父さん「そうかこのキャンプをそんなに気に入ったのか、、でも確かに飛行機を置いておくには時期が遅すぎるかもしれんな、まあいい、また来年ゆっくり来ると良いよ」


正直なところ、このキャンプは飛行機でしか行けない絶景で、
ハンティングには最高の場所、なにより下界と離れているという点で
何ヶ月でも滞在してみたかった。
俺がなにか宗教の熱狂的信者であるならば、このキャンプは差し詰め
聖地や寺院と言ったところだろうか、誰にも譲れない場所という感じだろう。
そしてひとつ確実に言えることは、日本にはこんな場所はない、と言うことだ。

しかし残念なことに、風雪に耐えるだけの係留設備を持たないこの場所、
デナリ山岳地帯9月下旬、そうのんびりとしてはいられないのだ。
来る時期が遅すぎた。

こういうときに飛行機を持つことの自由と、不自由を感じる。
空飛ぶ道具は、自由であればあるほど時に最悪のお荷物となる。
飛行機でしか行けない厳しい場所で大胆に活動しようとすればするほど。

すでに午後3時。
今日は、なんとしても日が暮れるまでに、このキャンプを降りなければ行けない。
ダニエルに話して、荷物をまとめさせる。

我々は、ダニエルの作った飛行場に戻った。
魅惑のハンティングキャンプに後ろ髪を引かれる思いを感じながら。

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