2009年10月20日火曜日
再会ダニエル
周辺の白い世界を懐かしい思いで眺めながら、
ハスキーに寄りかかってダニエルを待った。
思えば、雪原への着陸は本当に久しぶりで、しかも
こんな山奥での着陸は初めてのことなのだが、心は落ち着いている。
場所は、飛行機でしかアプローチできないデナリの西麓、高度2000ft、9月下旬の冬景色。遠くからバギーの音が聞こえてきた・・ダニエルだ。
ダニエルは、麓の村ニコライの住人でアサバスカン・インディアンである。
職業はハンティングガイドであり、
村では「マウンテンマン」と呼ばれているほど山好きな男だ。
だからハンティングシーズンにはずーっと山で暮らしている。
その山がこのSliver Tipsと言うわけで、
8月上旬からすでに2ヶ月近く電気もガスも水道もない場所で暮らしている、、、
というよりは彼にとってインフラがないのは当たり前で
たとえて言うならば、宗教における寺院のような
神聖で心落ち着ける場所であるのだ。
俺とダニエルが知り合ったのはちょうどその8月上旬、
ダニエルが仕事でこのキャンプに来る直前に
ニコライ飛行場で偶然知り合ったわけだ。
静寂を爆音で切り裂いてきたバギーがハスキーの横で止まった。
数ヶ月も風呂に入っていないにしてはこぎれいなダニエルが、
多少の笑みを浮かべている、軽く握手しながら、
久しぶりに、しかもこれ以上ないシチュエーションで再会出来たことを
俺たちは喜び合った。
ダニエル「よくきたな。良い滑走路だろう?」
俺「これはダニエルが作ったの?」
ダニエル「そうだ、幅は狭いが長さは十分だろ?」
俺「雪がなければ、もっと最高だけれどね、、ところでなぜまだキャンプにいるんだ?もうムースハンティングは終わっただろ?」
ダニエル「たしかにムースハントのお客さんはとっくの間に帰ったんだ。だから帰っても良かったんだが、、迎えの飛行機が来ないというのもある、どうやら頼んでおいたブッシュパイロットがどこかで事故ってしまったようなんだ、そして二つ目の理由は、おまえを待っていたから」
俺「じゃあ、ひとまず俺と一緒にニコライに帰れるというわけだね、ちなみにこの雪と今の季節じゃ、ハンティングはどう?」
ダニエル「ニコライに戻りながらでも考えよう、熊がいればまた状況は変わるさ。ひとまず俺のキャンプサイトに来てくれ、俺の両親もいるから」
俺「両親もいる?そうか、お父さんもハンティングガイドだもんな、一家でハンティングキャンプを守っているというわけだな」
ダニエル「まあ、そんなところだ」
俺とダニエルは、ひとまずハスキーを安全な場所へ移動させた後、
バギーを二人乗りしてハンティングキャンプへ向かった。
キャンプまでの数マイル頬にあたるデナリ山麓の空気に意味を感じる。
なぜ自分がこんな所にいるのか、どういう運命が自分をここに連れてきたのか
反芻する余地もないぐらい自然な存在感である自分と、逆にそれを疑い奇妙な違和感を感じる自分。
ハンティングと飛行機がもたらしてくれる、巨大なダイナミズムと
デナリがもたらす完全静寂場としての活動空間。
そしてそれらをつなぐのは、人の意志。
事象と世界をつないで、新しい世界と価値観を作る
その先にあるのは、我々の目指すべき精神そのものである。
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