2010年7月8日木曜日
目指した途中の夢
キャンプ全体と飛行機が深い霧に包まれている。
北極海に浮かぶの氷の上に乗った冷寒な湿気が
そのまま南下したような、そんな空気感だ。
こんな日は、まずもって飛行することは叶わない。
霧雨に濡れながら外(地上)で活動して、カリブーを追い、グリズリーを探しつつ
寒さで体がこわばる厳しさを味わうのも良いが、
一転して、テントの中でじっとしながら
唯一持ってきた、とっておきの日本語の本を読む時間も素晴らしい。
ナンセン・「極北」
(北極海・漂流探検記)
をテントを叩く雨音の律動に合わながら読んだ。
100年以上前にノルウェーの探検家・ナンセンが、
北極海を船で計画的に流氷にのって漂流し、
様々な発見や経験をした探検記である。
ナンセンは途中、船が北上しなくなった北緯84度付近で、
船を他のクルーたちに任せ、
もう一人の仲間と犬ぞりとカヤックで更に北上を目指す。
しかし食料は途中でなくなり、厳しい流氷は行く手を阻み、
それでもシロクマ、アザラシなどで食料を自給しつつ、
ひと冬を越して、ついには生還する探検記である。
この探検行には、現代の最新機器が補うことによって失なわれた
すべての冒険的要素が詰まっているように思われ、
とくに感銘を受けたのは、
自分で常に食料を調達するスタイルであり、
空輸に頼る現代の北極探検とは、
まったく異なる自主自立したものだ。
さらに
探検行そのものに漂う夢のかけらが、
本人の意思で行われた人生そのものであった
ことが、この本の最も偉大な点だろう。
本人は、本の最後にこう結んでいる。
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さまざまなあこがれを胸に抱いてすごした、
氷と月の光に照らし出された長い夜は、
別の世界からは、遙か遠い夢のように思える。
来たり、そして去った夢。
しかし、夢なくして人生に何の価値があろうか。
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北緯70度のキャンプでは、
寒雨がテントを叩く音がやみ、
優しく、なにかが降り積もる音に変わっていた。
外に出てみると雪が降っていた・・・7月の雪だ。
羽布張りの小さな飛行機は、
雪が降り霧に霞んで、よく見えないが、
それもまた自分が目指した途中の、極北の夢の景色として、
記憶に残るような気がした。
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