2009年8月2日日曜日

突入、煙の中へ

FortYukonの朝を迎えた後は、一路東の人口百名ちょっとの小さな村「Chalkyitsik」(チャルキーチィック?読みにくい)へ。聞いたこともない名前の村への訪問は、実にドキドキするものだ。しかしながらこの村は、データ取りを終えて村を一周しただけなので印象は薄かった。でも、これがなかなか雰囲気は悪くなく、こぢんまりした小気味よい村であった。

Chalkyitsikを離陸後、南の給油地点「Circle」(サークル)を目指す。この村は過去に3回、訪れているので本当に補給だけ・・という感じなのだが、しかし今回はそう簡単にはいかなかった。ChalkyitsikからCircleへの直線距離上で、またもや山火事の発生である。当初は、視界が悪いなぁ・・・と思いながらごまかして飛び、上昇して火災域を俯瞰しようとおもったのだが、いっこうに煙が切れることなく、状況はさらに悪くなり次第に自分の周囲360度が真っ白、、、気がつけば、右に30度、上方に10度ほど飛行機が傾いていた。「おお、久しぶりにバーディゴ(空間識失調→要するに上下左右感覚がなくなること)だ!!」と喜んで早速計器飛行に切り替えて飛行機の姿勢を正すとともに、これ以上進むのは危険と判断して180度回頭、まずは来た空路に戻ることを決心。なにかおかしいことになったら、戻るのが一番。「これ、自然界とつきあう時の大原則」だ。

後席の八戸さんも「なんだかすごく煙臭いね」
とちょっと危惧している様子。

そういえば、気球はこういうとき飛ぶのだろうか?と聞いてみると、

「飛ばないですよ、でも山火事の上を飛んだらどこまでも高いところにいけるだろうなぁ・・・」

とちょっとメルヘンティックな回答、なるほど。

火災域は、半径15マイルほどだろうか。
西へ迂回ししてユーコン川沿いにサークルを目指す。さすがに大河の上までは火はこないだろう。

そして約40分、目的地サークル上空へ。
サークル上空からユーコン川をまたいで北を見ると、先ほど突入しかけた山火事の中心部があった。
中心部から煙は北へ向かっていたので、どうやら進路を南に取っていた我々に直接影響したようだ。
あのまま、進んでいたらあの火の中心部で丸焦げか、呼吸困難か、猛烈な上昇気流で死んでいただろう。
八戸さんにそのことを話すと、それほど驚いていない様子。さすが世界中を気球で飛びまくっているだけのことはある。
今年の春は日本アルプスを気球で飛び越えたというのだから恐れ入る。
八戸さんにはもっとすごいスリルが必要なんだなぁと思ってしまった。

煙の低視程の中、サークルへ着陸。
八戸さんに誘導してもらいながら普通の道路をガソリンスタンドまでハスキーで進む。
八戸さん、さすがに道路(しかも砂利道)を飛行機が移動する光景に非常に驚いている様子。
たしかに日本では一般道路を走る飛行機は、まず見られない。けれどここは飛行機天国のアラスカ、何でもありである。
(というかガソリンスタンドのおばさんに「ここまで来い」と言われたのだから仕方がない)

給油後、ユーコン川のほとりにテントを張って大河の見える場所から、ゆったりとビールを飲む。
つまみは、さっき押し売りに来たインディアンおばちゃんから買った10ドルのユーコン・キングサーモンのスモーク(いわゆる鮭とば)である。ユーコン川のキングサーモンは脂がのっていて非常にジューシーでうまい。かぶりつくと脂がべっとりと指にまとわりついて、それがさらに食欲を増進しビールがすすむ。食べればわかるが鮭というよりは、鰤(ブリ)のような味わいである。これもインディアン村を回る旅人ならではの贅沢。
八戸さんと明るい深夜のなか、ビール12本を飲み干して、ユーコンの流れにつかるように眠った。

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