2010年6月10日木曜日
極北の強風飛行
ブルックス山脈から、北極海まで平坦な地形が続く
南北の幅約500キロ、東西の長さ1500キロ以上のツンドラ平地は、
一端風が吹くと、しばらく止まらない怖さがあります。
カビックの滞在も後半戦に突入した頃、
数万頭のカリブーのいるノーススロープでは、
東北からの強風が吹き荒れる日が続くようになりました。
その強さは、25〜35ktで風には強弱の波:息(GUST)があり、
軽飛行機には非常に厳しい離着陸条件でした。
私のハスキーの横風制限は、13kt。
風の方向が、飛行場の横から吹くようになれば、
機体制限的には、あっという間に飛べない状態になります。
残りの撮影日数を数えながら、風が止むのを待ちつつ、
それでもギリギリのところでなんとか離陸できないかを模索します。
それで、なんとか飛べるような風になれば離陸するのですが、
風はいつも定常ではなく、
飛行が終わって着陸する時には、
また制限以上の横風が吹いていることが多々ありました。
滑走路に着陸するには、横風が強すぎる
かといって他の横風が弱い飛行場は周辺にない。
そんな時はどうするか。
こういう時は、カビックにあるランプ(飛行機を駐機する場所)に無理矢理着陸します。
具体的には、駐機場の最大距離を稼げる対角線を使って、風と正対するように(横風成分がなくなるように)
方向を変えて着陸するのですが、この駐機場の距離はたったの30mぐらいしかありません。
しかも駐機場をちょっとはみ出すと、ツンドラの荒れ地になり(そこまで50m)
さらにそれを越すと沼が待ち構えています。
さすがに本来着陸する場所ではない、ところに降りようとするので、
カビックの管理人であるスーザンの了解を取っておく必要があります。
「スーザン、横風がイヤだからランプに着陸してもよい?」
「ええ、あなたが出来ると思うなら、おやりなさい。でも何かあってもそれはあなた自身の責任よ」
「OK、自分自身の責任でやるよ」
アメリカでは、なにかいつもと違う、危険なことをする場合によく、
Take your own risk
と言う言葉が、出てきます。
リスキーなことを行うことも、
その責任を自分で負うことも、
それが個人の自由に任されている
この国に住んでいる人の考え方が、私は結構好きです。
着陸は、ギリギリの接地を狙って地面にたたきつけるような感じでした。
大きなバウンドはしましたが、その後、強烈なブレーキと正対する強風のおかげで、
30mの駐機場で何とか停止しました。
この間の着陸操作には、着陸続行か中止か瞬時の判断と、
微妙なバランスの操縦桿とブレーキ操作が必要になってきます。
狭い場所で着陸する場合、
着陸は、本当にかっこ悪いものですが、
それでも飛行機を壊さず、人がケガをしなければ、
それはそれで、きっとよい着陸なのだと思っています。
安全、安全とやたらにうるさい世の中ですが、
安全性を高めるための技術や経験は、
ある程度の危険の中に自ら立ち入らねば得られない
と言うことを改めて実感した次第です。
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